高照度光療法とは – 体内時計、生体リズム
光療法とは何でしょうか?
光療法は高照度光療法とも呼ばれ、太陽光やそれと同等の光をあたえることにより体内時計を調節して生体リズムを整える治療法です。
地球に生命が誕生してから、多くの生物は太陽の光に影響を受けて進化してきました。特に、人間に対して太陽は大きな意味を持っていました。地球の周期が24時間であるのに対して、人間の体内時計は必ずしも24時間ではなく、人により24~25時間と言われています。
光療法は太陽の営みが起源
1日が25時間の人の場合、人間の自然な目覚めや寝入る時間は、日ごとに1時間づつ遅れてゆくことになるのです。この体内時計の誤差をリセットするのが朝の太陽光です。この働きが生体リズムを整える働きをします。
しかし、現代は24時間社会となって生活パターンが不規則となり、太陽のリズムとは無関係の生活があたり前となっています。昔ながらの日の出と共に起きて日の入りと共に眠るという生活パターンを踏襲しにくいのです。
そのため体内時計がずれて生体リズムに異常をきたし、睡眠障害など様々な不調を感じている人が多く見られます。光療法では太陽に代わって人間の生体リズムを整える働きをします。
目から取り込み脳へ送る
光療法では、朝、太陽光または高照度光療法器具を使用して2500 ルクス以上の光を目から取り入れることにより、体内時計をリセットしメリハリのある生体リズムをつくります。
朝、2500 ルクス以上の光を浴びることにより、自律神経に影響を与え、交感神経の働きを活発にし血圧や体温を上昇させて身体を覚醒させます。つまり、体内時計をリセットして一日をスタートさせ、アクセルを踏む役目を担います。
ただ、2500ルクス程度の明るさでは2時間も浴びる必要がり現実的ではないため、実際に光療法を行う際には、5000ルクスから10,000ルクスの光を使用する場合がほとんどです。
光療法では目から光を取り込む
また、眠気をもよおすメラトニンというホルモンは、日中に光を浴びることで作られ、夜になって暗くなると分泌を始めます。
光療法を行うとメラトニンの分泌が抑制され、夜暗くなると再び自然にメラトニンが分泌されて眠気を促します。
したがって、部屋を明るくしたまま寝てしまうと、メラトニンの分泌が抑えられて深い睡眠が得られなかったり、すぐに目が覚めてしまうなどの不調が出やすくなります。メラトニンの分泌は光に敏感に反応します。
このように生体リズムにメリハリをつけるには、光療法を行うことがひとつの助けとなります。光療法をうまく習慣化できれば、生体リズムを健康な状態に整えることができ、だんだんと健康な生活を送れるようになります。
医学的には、光療法は、概日リズム睡眠障害や冬季うつ病(季節性感情障害)などに特に効果があるとされています。また、生活リズムを正常に戻す目的で、光療法をうつ病に適用する場合もあるようです。
光療法の原理
光療法が実際に人間の脳の中でどのように働くかもう少し詳しく見てみましょう。
光療法が働くしくみ
目から光を取り込み、2500ルクス以上の光で体内時計をリセット
光療法では、まず、目から2,500ルクス以上の強い光を取り込みます。体に光をあてるのではなく、目で光を捉え、脳にその明るさを伝えるのです。実際には、2,500ルクスというのは最低限の明るさなので、5,000ルクスから10,000ルクスの高照度光が使用されるのが一般的です。
目で捉えられた光は、網膜から脳の視床下部にある視交叉上核という場所に伝わります。ここが体内時計のありかです。強い光を感じると体内時計をリセットするよう働きます。
その後さらに光の信号は松果体に送られ、松果体はメラトニンの分泌を制御します。体内時計がリセットされるとメラトニンの分泌は抑制され、その約14時間から16時間後にメラトニンが再び分泌されて眠気をもよおすよう働きます。
これが光療法の一連のしくみで、人間の持っている自然な仕組みです。光療法を脳の中のしくみで捉えると、意外にシンプルですね。一言で光療法を言い表すと、眼で光を捉え、脳の中枢部にある体内時計を調整して生活リズムを整え、昼夜のメリハリの効いた生活を営めるように働くといったところでしょうか。
医療としての光療法
光療法は一般的に知名度はあまり高くはないですが、医療の世界ではひとつの治療法として確立されており、多くの医師の書籍で紹介されています。
睡眠障害は、現代社会の抱える大きな問題です。その原因は内的時計と外的時計、すなわち時計遺伝子と環境の食い違いで生じる体内時計の異常によるものと考えられます。<中略>こういう場合、光照射療法といって、強い光のシャワーを浴びるようにします。
まず2500ルクス以上の強い光を用意します。これは特別な装置、高照度光療法器具が必要です。というのは、普通に生活している部屋の夜の照明の強さは数百ルクス程度ですからとても足りません。太陽の光がいちばんよいのですが、太陽が利用できないときは、高照度光療法器具を用意してください。そして、その光を2~3時間連続して当ててください。光によって時間のずれが治るまで、これを毎日行ってください。
山梨医科大学教授 田村康二著より引用
朝、明るい光を浴びると分泌が止まって眠気のないすっきりした朝が迎えられます。反対に、目覚めた後、薄暗い部屋のなかにいると、メラトニンが分泌し続けるので、眠気がとれません。
<中略>
朝、30~60分ほど散歩しながら太陽の光に当たると、メラトニンの分泌が抑えられます。これにより、日中の分泌が低下し、夜間の分泌が増すので、メリハリの利いた一日となります。
東邦大学名誉教授 鳥居鎮夫著より引用
睡眠障害の原因の一つに生体リズムの乱れがあげられる。概日リズム睡眠障害の患者だけでなく、不眠に悩んでいる人では生体リズムの乱れが高率に認められる。したがって、生体リズムを生活のリズムに同調させ、メリハリをつけることは、不眠の解消にも役立つ。生体リズムの同調因子は多数あるが、その中で光が特に重要である。
光は、生体リズムの同調因子としてもっとも強力なものである。ヒトの眼は強力な調節機構が備わっているため室内の電球や蛍光灯などの光でもかなり明るく感じるが、実際には晴れた日の野外(約1万ルクス)の20分の1から10分の1の光量しかない。体内時計を同調させるためには野外の太陽光がもっとも効果的である。入眠直前の強い光は生体リズムを遅らせる作用があり、起床直後の強い光は生体リズムを早める作用がある。
うつ病はリズムの病気である。その場合にはいろいろな身体機能のリズムに位相の前進が見られる。一方、睡眠と覚醒のリズムは位相が後退している。それが、この病気の本態であるという考えももっている研究者は結構多い。うつ病に対する光療法は、この位相のずれを正すという目的のために試みられている。
光療法あるいは光パルス療法とよばれるうつ病の治療法は、早朝二時間か三時間、1500ルクス~5000ルクスまでのかなり明るい白色光を照射する方法である。何本もの蛍光灯の前で安静にしているのである。病院によっては、その間本を読ませているところもある。こうすると、ずれていた覚醒・睡眠のリズムの位相がしだいに前進して、症状が改善するという。
医学博士、三菱化成生命科学研究所名誉研究員
川村浩著より引用
このように、光療法は多くの医師の書籍で紹介されている有効な方法です。
それでは、光療法と生体リズムについてもう少し詳しく見ていきましょう。
体内時計をリセットして生体リズムを整える
光療法は、体内時計をリセットし生体リズムを睡眠状態から覚醒状態に切り替え、昼と夜のメリハリをつけることが可能です。
- 体内時計をリセットして、生体リズムを睡眠から覚醒に切り替える
- 更に十分な光を浴びて覚醒度を上げ、昼夜のメリハリをつける
光療法の二つの働き
これにより生体リズムを整え、悪いリズムからよいリズムにシフトさせ、しっかりとした深い眠りに導くことができます。この光療法と生体リズムの関係を、「睡眠から覚醒」「昼夜のメリハリ」という視点で、もう少し深く説明します。
光療法は二つの働きで生体リズムを活性化
ステップ1:強力な光で体内時計をリセットし睡眠から覚醒に切替える
光療法では、まず朝強い光を浴びることで体内時計をリセットして生体リズムを睡眠から覚醒に切り替えます。これによって、
- 朝の寝起きの時間に、短時間で眠気がとれる
- 朝からスカッと元気よくスタートできる
- 朝からテキパキと仕事ができる
など、朝型の気持ちの良い生活習慣が得られます。
生体リズムの良い人と悪い人では、朝の覚醒の始まり方が違います。生体リズムの良い人は、睡眠から覚醒へ一気に移り変わりますが、生体リズムの悪い人は、比較的ゆっくり移行し覚醒の盛り上がり感に欠けます。そして目覚めの悪さが午前中のだらだら感につながりがちです。
ステップ2:更に十分な量の光を浴びて覚醒度を上げ昼夜のメリハリをつける
朝しっかり覚醒したら、今度は十分な量の強い光を長時間浴びることで、昼間と夜のメリハリをつけることが可能です。昼間の覚醒の度合いを高めることで、逆に、夜には深い睡眠が得られます。
これによって、
- 昼間もテキパキ仕事ができる。居眠りすることがない。
- 夜はぐっすりと深い睡眠が得られる。脳とからだ十分休息できる。
など、本来、人間の持っている生体リズムを取り戻すことができるようになります。
生体リズムの悪い人は、覚醒度合いが弱いため、昼間の眠くなる時間帯には、活動が鈍くなったり、居眠りをしてしまいがちです。それに対し、生体リズムの良い人は、朝、覚醒した後、さらに覚醒の度合いを強め、しっかりと活動できています。
生体リズムが崩れると
このように光療法は、睡眠から覚醒に切り替えることと、昼夜のメリハリをつけることによって生体リズムを整える働きをします。
また、生体リズムが崩れた場合の症状としては、他にもいろいろなケースが見られます。たとえば、概日リズム睡眠障害では以下のような症状が現れます。
- 望ましい時刻に入眠、覚醒することができない。
- 睡眠時間帯が望ましい時刻に比べ2時間以上遅れている状態が少なくとも1カ月以上も続いている。
- 時間的な制限がない時には、その睡眠の質と持続時間は正常であり、自然に覚醒できる。
また、海外旅行で体験する「時差ぼけ」や夜間勤務などの勤務形態による睡眠障害は、体内時計がずれて生体リズムが崩れた状態で、
- 勤務中の居眠り
- 全身倦怠感
- 集中力不足による仕事上のミス
などの症状が現れます。
あなたが、もしこのような症状を自覚しているようでしたら、生体リズムが乱れて睡眠障害や不眠に陥っているのかもしれません。そういう方にも光療法が有効であると医療書には書かれています。
光療法のやり方
それでは光療法を実際に行う方法について見ていきましょう。
多くの書籍やホームページに記載されている通り、光療法を行うには、基本的には、毎朝、決まった時間に太陽光を十分に浴びるのが一般的です(場合によっては、夕方にも浴びる場合もあります)。
一見簡単なようですが、皆さんの実生活の中で可能でしょうか?
屋外、あるいは窓際の日差しが差し込むところに毎日30分から1時間もいられるでしょうか?休日ならいざ知らず、仕事や家事の忙しい平日にはかなり無理があるように思います。
また、夏の暑い日に太陽の光を浴びることは大変な苦痛です。冬の寒い日に長時間外出することも体調に悪影響を与えかねません。春や秋の気候の良いときでさえも、仕事や家事の事情によっては、継続して日光を浴びることはなかなか難しいものです。天候不順の時期には、太陽自体が隠れてしまいます。
さらに、うつ病を伴っている方の場合は、外出して日光を浴びることが大変な苦痛である場合がほとんどです。多くの方が室内で休息して過ごす現状を考慮すると、直接太陽光を浴びることはあまり現実的な方法とは言えません。
太陽光を浴びるのは難しい | 毎日同じ時刻に光を浴びるのも難しい |
このように、自然の太陽の光を継続的に長時間浴びることは意外と難しいのです。しかし、ほとんどの書籍やホームページでは、「太陽の光を浴びなさい。」、あるいは、「特別な装置が必要です。」などとしか説明しておりません。つまり、光療法の原理の説明をしていても、現実的なやり方を具体的に示していないのです。これではみなさんが、具体的にどのように光療法を行えば良いかがわからない、というのが実情なのです。
これでは光療法を実践する事ができるとは言えないので、当委員会では、高照度光療法器具や使い方の具体的なノウハウに関して、もっと情報提供する必要であると感じています。
詳細情報:
光療法はこんな症状の方に
光療法の理解
概日リズム睡眠障害