子供の不登校と睡眠障害
「不登校の子供や学生は、慢性疲労症候群(注)の状態にあり、そのほとんどに睡眠障害(概日リズム睡眠障害)が認められます。」 これは、熊本大学医学部の三池輝久先生(現在は兵庫県立兵庫県立リハビリテーションセンター中央病院勤務)を中心にまとめられた研究結果の一部です。筆者は、熊本大学医学部と三池輝久先生の資料類を読み、後述する内容とも併せて理解してその研究内容に愕然としました。
注: 慢性疲労症候群についてはこちらをご覧下さい。
不登校の子供や学生に対する理解が、全く間違っていたからです。そして、これらの研究成果を理解するに至って、このページを大きく書き直さざるを得ませんでした。
最初にも書きましたように、不登校の方の場合、睡眠のリズムが乱れている方が大半で、結果的に、昼夜逆転してしまっている方が多くおられます。これまでも、母親からの連絡で、光療法によって子供が朝起きれるようにしたいという問い合わせは何件もあり、筆者は単に、概日リズム睡眠障害、特に、睡眠位相後退症候群の場合が多いという理解でいました。
したがって、経験的に光療法を使えば正常な睡眠状態に戻すのは、それ程難しくはないと考えていました。ご両親としても、健全な睡眠リズムに戻し、とにかく朝起きて学校に行けるようにしたいとの想いであったと思います。しかし、実際に光療法を適用してみると、上手くいくケースとそうでないケースがありました。
そして、上手くいかない場合の原因を間違って理解していたことをしりました。たとえば、不登校の原因は別のところにあり、睡眠障害や光療法という切り口から入っても、その成果はある程度得られても根本的な解決には至らない。また、通学や通勤といった何某かの時間的な規律があれば、それに合わせて光療法を適用して生活リズムを整えることも可能ですが、本人にどうしても朝起きなければという意識が希薄な場合は、光療法を適用して継続するのが難しい... などという考え方です。
これらの不登校に対する誤った考えは、表面上、部分的に正しくみえるところもあるのですが、そもそも根本的な理解が大きく間違っていることを、熊本大学医学部と三池輝久先生の資料類を読んで痛感した次第です。
不登校・睡眠障害・慢性疲労症候群の原因
熊本大学医学部と三池輝久先生らによると、不登校、つまり、慢性疲労の状態は、何らかのストレスが持続的に加わることによって脳機能を限度以上に疲労させ、睡眠障害などの様々な障害が現れ、元に戻れなくなった状態を指しています。
何らかのストレスというのは実に様々ですが、例をあげると、いじめ、土日も続く部活、健康問題、両親の不仲、教師との関係、情報過多、夜型社会による慢性的な睡眠不足など様々です。現代という時代は、職場、学校、家庭のあらゆる場所が高ストレスと言われ、精神の許容量を超える状態が多く存在し、その状態が長く続くと、睡眠障害を陥り脳機能の消耗が激しなって元に戻れなくなり、この症状に陥る可能性が高くなるようです。そして、結果的に不登校になります。
このようなストレスは、現代社会の中では、絶えず負荷としてかかっており、1つだけに原因を求めるのは難しいように筆者は考えます。したがって、不登校の原因を取り除こうするとき、その難しさを感じざるを得ません。いじめのように、かなり一点集中的な問題の場合、それを解決できれば問題の多くを解決出来るかと誰でも考えがちです。
ところが、更に問題なのは、たとえいじめが無くなったとしても、不登校から回復することが出来ないそうです。つまり、原因を取り除いたとしても、一度疲労して機能低下した脳は、自力ですぐに回復できるわけではなく、それを回復させるためには専門的な治療が必要となるのです。
したがって、事態は非常に複雑・深刻で、不登校となる原因の除去とともに、脳機能を健全に働くように治療する両面からの措置が必要となります。
また、成長期に慢性疲労症候群にかかると、心とからだの成長が阻害される点は否めません。ですから、事態は緊急かつ深刻であることを理解する必要があります。
不登校・睡眠障害・慢性疲労症候群の症状
不登校になって慢性疲労症候群の状態になると、代表的な症状として睡眠障害(概日リズム睡眠障害)が現れますが、その他にも様々な症状が身体に表れてきます。
ここではそれらの内の代表的な症状を紹介します。詳しくは、下記の詳細情報をご覧下さい。
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睡眠障害: 寝付きが悪く、途中で目が覚める、熟睡感がなく、悪夢を見る。
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生体リズムが崩れ、脳の働きが弱っているので、すごく疲れやすい。
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睡眠の質を確保できないので、長時間眠るが休養を十分取れたわけではなく、エネルギーが著しく低下する。
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うつ病状態
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思考力・集中力の低下、頭痛
不登校・睡眠障害・慢性疲労症候群の症状
この中で、睡眠障害に関しては、高照度光療法を使って治療しますが、じっくりと取り組めば、睡眠・覚醒のリズムに限って、徐々に回復方向に向かう場合がほとんどです。
しかし、注意を要すると感じたのは、よく母親から問い合わせを受ける中で、「朝起きられるようになれば学校に行ける。」と誤解している点です。
症状が極めて軽く、脳の快復力が著しく早い場合は、ごく希にそのようなケースもあるかもしれませんが、一般的に慢性疲労症候群という状態から回復するには、それほど簡単にはいきません。数ヶ月以上の期間と様々な面からの対策が必要となるようです。
ですから、子供が朝起きられるようになったからといって、すぐ学校に行きなさいと仕向けるのは、まだまだ子供の脳機能が回復し切れていない状態では負担が大きく、大変危険であることを十分理解しておく必要があります。
不登校・睡眠障害・慢性疲労症候群の治療
熊本大学医学部と三池輝久先生らによると、不登校の治療によって子供が社会復帰できるようになるためには、次の3つの要素が必要であると指摘されています。
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生活リズムの調整(概日リズムが整い、8時間以下の睡眠で1日を過ごせる用になること。光療法を中心に、投薬も並行して行われているそうです)
ここでは、昼と夜のリズムを取り戻すだけではなく、ホルモン分泌、深部体温の正常化等も含まれるので、単に、朝おきられるようにることだけを意味しているのではありません。
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遅れた分の学力の補填
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友人や回りの人との関係での自信回復
不登校・睡眠障害・慢性疲労症候群の治療
これらの項目を見ると、「心」と「身体」の両面でのケアを十分行ってから、子供に過剰な負担がかからないように細心の注意を払いながら、徐々に社会復帰していく必要があることを感じます。親と回りの人間との密な相互理解を元に、ゆっくりと無理なく進めていく作業であると思います。
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