睡眠障害(不眠)は現代病
2002年3月に行われた調査によれば(北里大学名誉教授 村崎光邦先生らによる)、なんと日本人の49.4%に不眠症の疑いあるという結果が出ました。しかも、そのうちの3割の人には、自覚症状がないという不思議な結果も得られています。われわれ日本人は、世界的にも不眠大国であるという指摘も見られます。あなたは毎日よく眠れていますか?
われわれは、生命を維持していくために必ず睡眠をとります。睡眠をとらないでいると、生命の維持に危機的状況に至ります。睡眠はわれわれ人間にとって欠くことのできないものです。したがって、われわれがより良く生きていくためには、より良い睡眠を取ることが必要不可欠となります。
ここでは、現代の睡眠事情を全体的に把握することにより、社会全体とあなたの睡眠に関して見直してみる場を提供したいと思います。
24時間社会への変化
現代は24時間社会であり、都会を中心とした「眠らない街」や、コンビニエンスストアが急成長しているように昼夜の区別なく人々は働いています。最近では、デパートやスーパーの営業時間も長くなるなど、社会の活動時間はますます長くなっています。
このような社会背景をもとに、家庭生活の時間も後ろ倒しになっているようです。ある調査によると、3歳児の50%以上は10時以降まで起きており、さらに深夜12時までおきている子供も数%いるという結果が出ています。これは、親の生活パターンが夜型となっていることが原因で、夜遅くまでだらだらと過ごす生活習慣は、子供達の慢性的睡眠不足を引き起こしています。身体的にも精神的にも健全な発達に悪影響を及ぼすことが危惧されています。
また、学生や若者の間では、夜更かしのクセがついてしまい、早く寝ようと思ってもなかなか寝つけないといった昼夜逆転の症状に悩む人が増えています。その多くは、受験勉強のために夜遅くまで頑張ったり、深夜までテレビを見たりして、極端に夜型の生活を続けることが主な原因になっています。こうした夜型の生活を長く続けていると、勉強や仕事に身が入らなくなって社会生活に支障が出るようになってきます。
ストレスの増大
情報化社会の浸透は、世界各地の情報をタイムリーに手に入れることがビジネスでの成功の鍵を握っているとも言われます。こうした環境の下で、ビジネスマンの就労時間は深夜にまで及び、交代制勤務が増加するなど睡眠環境は悪化しています。また社会の国際化により海外出張が頻繁になったことも、睡眠リズムの乱れの一因となっています。
こうした就労環境の変化に加え、バブルの崩壊以降は深刻な不況が続き、年収の減少、リストラ、人事異動、転勤、成果主義の導入など、ビジネスマンのストレスはどんどん増加してきました。考えてみると、ビジネスを取り巻く環境には、正常な睡眠を妨げる要因が満ちあふれているのです。
国民の高齢化
日本は世界一の長寿国です。そして、この傾向はまだまだ続くように予測されていますので、高齢化による様々な問題が今後噴出してくることが容易に推測できます。その一つが不眠の増加です。
一般に、年をとるにつれ、夜早い時刻に眠くなり、まだ暗いうちから目が覚めてしまうようになります。また、睡眠も浅くなり、分断されやすくなる傾向があります。そして、昼間にウトウトと居眠りをしてしまうことも多くなり、昼夜のメリハリがはっきりしなくなってきます。
これは、加齢によって身体のさまざまな生理機能が低下してしまうことと、仕事についておらず時間的余裕があること、昼間の活動量が減ってしまうことなどによるものですが、個人差はあるにせよ、高齢者の一般的な特徴です。さらに、心配事が重なったり、病気を抱えているなど、精神的、身体的な要因が加われば、さらに「よく眠れない」と悩むことになってしまいます。
生体リズム障害の増加
このように、24時間社会への変化による不眠の増加、ストレスの増大(ビジネス環境、育児など)による不眠の増加、国民の高齢化による不眠の増加など、人間が本来持っている生活リズムにかかわる障害が急増しています。
生体リズムは人間の生命維持に深く関連したものなので、これが狂ってくると単に生活リズムの不調にとどまらず、心理学的な要因と結びついた不眠症や、うつ病などの精神疾患と結びついた障害へと発展してしまう場合があります。症状が慢性化して重大な合併症を引き起こさないうちに、早めに医療機関を受診して適切な診断をうけることが大切です。
生体リズムは人間の生命維持に深く関連したものなので、これが狂ってくると単に生活リズムの不調にとどまらず、
心理学的な要因と結びついた不眠症や、うつ病などの精神疾患と結びついた障害へと
発展してしまう場合があります。症状が慢性化して重大な合併症を引き起こさないうちに、早めに医療機関を受診して
適切な診断をうけることが大切です。
現代人の睡眠時間
日本人の平均睡眠時間は、1960年代には8時間13分でした。それが2000年には7時間23分にまで短くなっています(NHK放送文化研究所の調査)。この睡眠時間は、世界的に見てもひじょうに短いといわれており、まさに、現代人が睡眠時間に関して大きな問題をかかえていることが浮き彫りになりました。
ちなみに1960年の平均的な就寝時間は夜10時で、起床時聞は朝6時と、人間の本来の生活リズムから考えるとまさに理想的なものでした。現代では、夜10時に寝て朝6時に起きる生活様式を取り入れよとしても、多くの人にとって様々な社会的制約で難しくなってきていますが、理想的な生活パターンとして認識しておくことは重要なことではないでしょうか。
現代人の睡眠への不満
このように、現代人を取りまく睡眠環境は明らかに悪化して不眠に悩まされる人が増えています。そして、現在では、日本の5人に1人は不眠でなやんでいると言われています。
厚生労働省が行った睡眠に関する調査によると、過去において睡眠に関する問題で困った経験をもつ人と、現在睡眠に関する問題を抱えて困っている人の割合は、下表の結果として得られています。
つまり、約35%の人が睡眠の悩みを持った経験があり、5人に1人は現在も睡眠に関する悩みを抱えていることがわかります。
分類 | 過去の不眠経験 | 現在の不眠 |
女性 | 39.3% | 20.3% |
男性 | 32.4% | 18.7% |
全体 | 36.4% | 19.6% |
また、このうち不眠が1ヶ月以上続いている人は11.7%にのぼり、なんと10人に1人が長期の不眠で悩んでいるという深刻な状況が見えてきます。
不眠の悩みは、特に20~40歳代の働き盛りの年代に多くみられるようです。不眠の理由の主なものとしては下記の二つの理由が顕著で、現代社会の特質を強く反映していることが良くわかります。
多忙で、かつ、高ストレスにさらされている現代人にとって、いまや不眠は生活習慣病の一つといえるかもしれません。
多忙により睡眠時間が十分にとれない | 51.8% |
精神的ストレス | 20.5% |