睡眠障害の要因と種類
睡眠障害と一口に言っても、様々な症状があり多岐にわたります。眠れないという障害もあれば、寝過ぎてしまうという障害もあります。ここでは、すべてに睡眠障害をカバーするのではなく、現代社会の構造に起因する「不眠」に主にフォーカスをあてて見ていきます。
睡眠障害はさまざまな形で分類されていますが、ここでは患者の立場から理解しやすいように、その要因別にまとめてみました。あなたの睡眠の現状とその要因別の障害を比較してみれば、より理解が深まることでしょう。
また、これらの要因はそれぞれが関連しあっている場合が少なくなく、実際に睡眠障害を持つ患者は、当てはまる項目が複数あることがあります。そのため、不眠は一筋縄では回復しない場合が多く見られます。
睡眠障害の要因と種類
主な要因 | 概説 | 疾患の例 |
1.心理的要因 | 引っ越し、結婚、出産、昇進などのライフイベントや、仕事あるいは家族のトラブルといった長期にわたるストレスなどによっておきる睡眠障害です。一過性のものから次第に慢性化し、現代社会で急増しています。 | 不眠症(精神生理性不眠症) |
2.精神医学的要因 | うつ病、統合失調症、依存症などの精神疾患による睡眠障害です。1ヶ月以上の長期の不眠の場合に多く見られます。WHOによると、うつ病患者は人口の3-5%まで急増しているため、これに伴い睡眠障害も急増しています。 | うつ病に伴う睡眠障害 ・気分障害 ・不安障害(パニック障害、PTSD) ・精神分裂障害 |
3.薬理学的要因 | 病院で処方される降圧剤、ステロイドなど種々の薬の副作用として発生する場合と、日常生活の中で摂取するアルコール、カフェイン、ニコチンなどの嗜好品も原因でおきる場合の睡眠障害があります。 | アルコール依存睡眠障害 |
4.生理学的要因 | 時差ぼけ、交代制勤務、入院、受験、引きこもり(不登校やニートなど)などによる睡眠障害で、本来の身体のリズムが狂うことにより起こります。これも、現代社会では急増しています。 | 概日リズム睡眠障害 ・睡眠相後退症候群 ・時差症候群 ・交代勤務睡眠障害 ・昼夜逆転 |
5.身体的要因 | 身体の異常と関わりのある睡眠障害で、腫瘍、心疾患、消化器疾患、呼吸障害などの身体的疾患によりおきる場合があります。 | 睡眠時無呼吸症候群 |
睡眠障害で最も多い不眠症
心配事があったり騒音が気になったりして不眠に陥ることは、特に珍しいことではありませんが、これがきっかけとなって、不眠の原因が取り除かれた後になっても不眠が継続して慢性化してしまうのがこの病気です。
ストレスや悩み事が解消されず、なかなか眠りにつけない状態が続くと、眠りに対するこだわりがだんだん強くなります。そうすると、ストレスや悩み事が解消されても、今度は眠れなかったらどうしようという不安が逆にストレスとなってしまって眠れなくなり、一過性であったはずの不眠が慢性化してしまうケースも少なくありません。
こうした慢性の不眠が続くことによって、うつ病やその他の生活習慣病へと発展してしまうことがままあります。したがって、「疲れているのに、よく眠れないな。」、「眠った気がしないな。」、「いつも疲れている感じがするな。」などと感じたら、症状が慢性化して重大な合併症を引き起こさないうちに、早めに医療機関を受診して適切な診断をうけることが大切です。
うつ病に伴う睡眠障害
気分障害、不安障害、精神分裂病などのうつ病(精神疾患)では、ほとんどの場合不眠の症状を伴っています。多くは数週間から数ヶ月もしくはそれ以上にわたる持続性の不眠で、患者を強く悩ませます。また、精神疾患患者の再発にも、この持続性不眠がかかわっていることが多くあります。不眠の背景にある精神疾患を治療することが重要となります。
- 気分障害
うつ病では中途覚醒や早朝覚醒が症状としてあらわれやすく、
蝶病では睡眠欲求が減少して睡眠時間が短くなり、睡眠も浅くなる傾向がみられます。 - 不安障害
全般性不安障害では、不安感が夜間にまで持ち越されるため、入眠障害を訴えることが多くあります。
一度不眠を経験すると、睡眠に対するこだわりがいっそう強くなり、一種の不眠恐怖を感じる状態に陥ることがあります。パニック障害では、夜間にパニック発作を起こす場合があるので、また起きるのではないかという強い不安から持続性の
入眠障害を起こしやすくなります。心的外傷後ストレス障害(PTSD)では、原因となった外傷的な出来事が夢に現われて目覚めてしまい、
強い不安症状を覚えるため、不眠が引き起こされやすくなります。 - 精神分裂病
入眠障害や中途覚醒、熟眠困難を伴います。その原因の詳細はいまだ明らかになっていません。
概日リズム睡眠障害
概日リズム睡眠障害とは、一言でいうと、自分の持っている生体リズムと生活パターンが合わなくて起きる睡眠障害と言えます。
私たちの身体は、日中に活動して夜は眠るようにつくられています。この睡眠時間帯を決定しているのが体内時計です。
しかし、現代社会では、この生体時計に反して夜間に活動する人、昼夜不規則に活動する人など労働時間が変則的な人が増えています。このため、生体時計が狂いだしたり、たとえ正常に働いたとしてもそれが自分の生活パターンと合わない時間帯に眠くなってくるようになります。これが概日リズム睡眠障害といわれる病気です。
概日リズム睡眠障害の種類
概日リズム睡眠障害には、主に下記のような種類の症状があります。
- 睡眠相後退症候群
睡眠相後退症候群とは、慢性的に睡眠時間帯が遅れてしまう病気で、眠ろうとする時刻に寝入ることができず、起きたい時刻に起きることができません。早く眠ろうと床についてもなかなか眠れず、明け方になってようやく眠ることができ、目覚めるのは昼頃といった症状が続きます。また、昼夜逆転してしまうこともあります。この病気は生体時計がずれてしまっているのが原因であるため、根本的に生体時計を修正することが必要となります。
24時間社会となった現代社会で益々増えている症状です。最近では、子供までが概日リズム睡眠障害となるケースが目立っています。その背景には、夜の塾通い、深夜のテレビ、ゲーム、携帯電話にくわえ、親の夜型生活などの社会変化があり、それががわれわれの概日リズムを崩している原因と考えられています。
- 睡眠相前進症候群
これは前者の逆の現象で、睡眠の時間帯が通常より前にずれていく症状です。つまり、早く眠くなり早く起きます。いわゆる高齢者の不眠のパターンです。程度の違いはあれ、加齢により、この傾向が出てきます。
この症状に対しては、生体リズムを遅らせて正常に近い状態にしなければなりません。従って、光療法では、通常、朝光りを浴びるのですが、この症状の場合は、体温が下がって眠くなってくる直前の夕方から高照度光を浴びて覚醒度を上げ、通常時間帯まで起きていられるようにします。
また、NHKのためしてガッテンでは、夕方5時頃に軽い体操や運動をすることによって、覚醒度や体温を上げ、眠くなる時間帯を後にずらせる方法を紹介しています。両方とも実施すれば、効果は更に上がるでしょう。
- 交代勤務睡眠障害
現代社会では、夜間勤務や交代勤務者が急増していますが、その80%近くの人が、睡眠障害やめまいなどの自律神経症状、吐き気・下痢といった消化器症状を訴えています。また、勤務中の居眠り、全身倦怠感、不眠、仕事上のミス、家族とのコミュニケーションの欠如など、さまざまな弊害も生じます。
- 時差ぼけ: 時差症候群
時差症候群とは、いわゆる時差ぼけのことです。生体リズムを現地時刻に合わせようとして、不眠、日中の眠気、身体の不調などの症状が生じます。時差ぼけは、飛行方向や、年齢、性格などにより異なりますが、一般に日本からヨーロッパ方面に向かう飛行より米国方面に向かう飛行の方が症状が重くなります。これは生体リズムを前進させるのか、あるいは後退させるのかという違いによるものです。通常は、生体リズムを後退させる方が容易であるため、生体リズムを前進させなくてはならない米国方面の飛行では時差ぼけが強く現われます。
- 非24時間睡眠覚醒症候群
この症状は、寝付く時刻が徐々に遅くなっていく睡眠障害です。就寝時刻が徐々に遅くなっていくことから、就寝時刻が固定される睡眠相後退症候群とは異なります。人間の体内時計の周期は25時間程度で、これが毎日リセットされて24時間の生活を送っている訳ですが、この症状では、体内時計がリセットされないことから起こる睡眠障害で、毎日1時間程度ずつ就寝時刻が遅れていきます。したがって、徐々に時間のずれが積み重なり、昼夜の生活が逆転してしまうこともあります。
治療法は、睡眠相後退症候群と同様で、光治療により毎朝決まった時刻に体内時計をリセットすることにより対処します。そして、覚醒度をあげるため、所定量の高照度光を浴びることになります。
- 不規則型睡眠覚醒パターン
症状としては、睡眠や覚醒の出現が不規則に起こり、一日に複数回睡眠します。
原因は、先天的に脳に障害のある方や脳梗塞を患っている人が、社会的接触の少ない環境に置かれると生じやすいと言われいます。また、他の疾患で長期にわたってベッド生活を余儀なくされている場合にも見られることがあるようです。
治療法としては、生体リズムを確保する事が目的となりますので、光療法や昼間の散歩・活動などを通じて、昼夜のメリハリを付けることが重要と言われています。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群とは、夜間呼吸停止によって深い睡眠が得られず、また、何度も目を覚ましてしまうため睡眠不足となり、日中に強い眠気を引き起こす病気です。
代表的な症状は、途切れがちに続く大きなイビキです。本人は気付かないことが多いのですが、病気に気づかないままでいると思わぬ事故を招きかねませんので、家族からこうした症状を指摘された場合には注意が必要です。新幹線の運転士が時速270kmで居眠り運転をしたことで一般に知られるきっかけともなりました。
原因として、肥満、咽喉頭部の形態的異常、中枢神経疾患などがあります。また、睡眠時無呼吸症候群が、高血圧症、虚血性心疾患、肥満症、脳血管障害などを悪化させるともいわれています。