冬季うつ病 (季節性うつ病)
冬季うつ病とは、季節の変化に起因する「季節性情動障害」(季節性うつ病)の一つです。1984年に米国の研究者が新たな病気として発表しました。
主に、10月から12月頃にかけてうつ症状が現れ、春先の3月頃になると回復する「冬季うつ病」が有名となっていますが、希に、夏に発症する「夏季うつ病」という病気もあります。ただ、うつ病という名称がついてはいますが、季節性のもので、精神的に問題を抱えている訳でもないので、一般のうつ病とはかなり状況が異なります。実際に症状の面においても、特徴ある症状を持っています(後述)。
冬季うつ病では、秋から冬にかけて発症し、春から夏に変えては回復
冬季うつ病は、一度発症すると毎年繰り返す傾向があります。また、患者の男女比では、女性が圧倒的に多く、男性の4倍近くに上るといわれています。当委員会のデータで見ても、やはり、女性の方が多いという結果は一致しています。でも、いろいろ調べてみましたが、どうして女性の方が多いかを説明している記事や書物は見つかりませんでした。
また、最近では、冬場がうつ症状、夏場がそう症状となり、年間を通じて「そう」と「うつ」状態を繰り返す症状の方も見られます。
冬季うつ病のうつ状態そのものは比較的軽く、自分がうつ状態とは気付かなかったり、春になると回復するので我慢している人も多いようです。実際に、北陸地方の患者に聞いた話でも、症状の軽い方の場合は、自覚症状を持ちながらも、春を待ちわびている方がおられるそうです。後で説明する治療法を実施すれば、その様な無理をせずとも、回復できる可能性が高くなりますが、まだまだ知名度が低くて理解されていないのかもしれません。
また日光の入らない部屋に住んでいる方も、冬季うつ病と同様の症状を持つ場合があることが知られています。
名著 「季節性うつ病」(著者:ノーマン・E. ローゼンタール)
冬季うつ病に関して、これ以下の説明で他のどのサイトよりも詳しく説明させていただきます。しかし、さらに詳しく説明した書籍を1冊紹介させていただきます。「季節性うつ病」(講談社現代新書、ノーマン・E. ローゼンタール著)です。
この本は、患者様から教えていただいたのですが、わたしがこれまでに医学書で吸収した以上の内容が一般人向けに書かれている素晴らしいものです。ご興味のある方は、一度ご覧になられることをお薦めします。
冬季うつ病の症状
冬季うつ病は、その季節が終わると症状は良くなるということと、うつ気分と共に過食、眠気といった症状が現れやすいのが特徴です。
毎年、秋から冬にかけて、夕暮れが早くなるにつれ心に変化が現れ、気分が落ち込んで何もやる気がしなくなり、ひどい場合は日常生活にも支障をきたします。
冬季うつ病では、うつ気分に加え、過食と眠気が特長
冬季うつ病の代表的な症状
冬季うつ病の代表的な症状をまとめると、
- なぜか、ただただむなしく、自己否定的になる
- 無気力感に襲われる
- 睡眠時間が長くなっているにもかかわらず日中も眠気がある
- 人付き合いがおっくうになり、外出がつらい
- 集中力がなくなり、普段やり慣れた家事や仕事ができない
- 食事が炭水化物や甘いものに偏り、体重が何kgか増える
などがあります。過食、過眠、炭水化物の渇望は、典型的なうつ病では出現しくい症状です。
幸い、冬季うつ病では自殺のリスクはひじょうに小さいと言われています。
一般的なうつ病の場合は、過食というより摂食障害を伴う場合があったり、過眠よりは不眠で苦しまれる方がほとんどで、そのため睡眠剤を服用される方が多いのが実情です。ですから、うつ病という名称はついていても、かなり症状は異なるわけです。
実際、冬季うつ病とまでは行かない方でも、冬になると、いつもよりたっぷり眠りたくなったり、多めに食べたくなったりします。これは、冬という厳しい季節に立ち向かうために、体がいつもより休息を必要としたり、エネルギーを蓄えようとする自然な活動と考えられています。
冬季うつ病の原因
冬季うつ病の原因は何でしょうか?
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日照時間が不足する冬場に発症することと
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緯度が高いほど冬季うつ病の発症率が高いこと
これらから、日照量の短さに起因すると言われています。
実際に当委員会で統計を取ってみても、人口の多い東京や大阪圏を別にすると、北海道、東北、北陸地方、それに日本海側の地方の方に発症する確率が高いようです。
冬場は日照時間が短く、日本海側では曇り日が多い
さらに、太平洋側から日本海側に移動された方が、急に冬季うつ病になる例は何件も観測されており、日当たりの良い部屋から悪い部屋に引っ越した場合などにも発生することが報告されています。患者によっては、雪が降ると楽になると言われる方がおられますので、推測に過ぎませんが、光が雪に反射して強い光りとなり、光不足を補う効果を発揮しているのかも知れません。
また、熊などの冬眠する哺乳類は、冬眠前の準備として食欲増進が見られ、冬になると活動を停止します。このことは日照時間が短くなることによって起きることがわかっており、われわれ人間も、同じ哺乳類としての共通の性質をもっていると考えられています。
冬季うつ病の発症のメカニズム
冬季うつ病の発症のメカニズムとしては、
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日照時間が短くなると、通常よりも光の刺激が減り、それが原因で神経伝達物質のセロトニンが減って脳の活動が低下してしまう。
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目に入る光の量が少なくなると、体内時計をつかさどる脳の松果体からメラトニンの分泌されるタイミングが遅れたり、分泌量が増えたりして、体内時計が狂う。
といった説があります。いずれの場合も、光の不足により、概日リズム(昼と夜のリズム)、深部体温リズム、メラトニンリズムが送れてが乱れ、全体として生体リズムが崩れて結果として症状が発生しているもの考えられているようです。
冬季うつ病の予防、治療、対策
冬季うつ病の治療・対策は、医学的に光療法が第1選択とされています。投薬よりも効果が高いと言われています。
光療法により、2,500ルクスから10,000ルクスの光を浴びることで、セロトニンの量が増えて脳が活性化したり、ホルモンの分泌や体温のリズムを調整されて症状が回復をすると言われています。実際の治療現場では、2500ルクスというのは最低限の照度で現実的でないので、5,000ルクスから10,000ルクスの高照度光を使用される場合が多いようです。
また、通常の光療法は午前中に実施するのが一般的ですが、冬季うつ病の場合は夕方に光を浴びても効果があるという報告があります。いずれにしても、きちんとした概日リズムをつくるためには、午前中に光を浴び、補光として午後にも光を浴びるのが良い生体リズムをつくる上では正解であると言えます。
冬季うつ病の患者に光療法を実施した結果、約70%の人に何らかの効果が認められており、早い人の場合、1週間以内に効果が現れると報告されています。
当委員会が、実際に冬季うつ病の患者をサポートしてきたデータでは、効果の割合は90%以上と、より高い割合の結果が得られています。また、早い方では2, 3日で顕著な効果が現れる場合もありました。
冬季うつ病患者に、高照度照明器具を使って光療法を行った文献がありますので、紹介しておきます。
詳細情報: 冬季うつ病と光療法
光療法でも冬季うつ病の症状が改善しない場合は、抗不安薬、光に対する感受性を高めるビタミンB12、抗うつ薬の服用が検討されます。ビタミンB12は、光の感受性を高める効果があると言われており、光療法との併用は相乗効果を期待できる可能性があります。
人間は、植物と同様に、光をある程度浴びないと心身の調子を崩してしまいます。生体リズムが崩れてしまうからです。夜型や昼夜逆転の生活を送っている方、日中でもカーテンを閉めて過ごすことが多い方や、日光が当たらない部屋にお住まいの方など場合は、冬季うつ病と同様の症状になりがちなので、意識的に光をとる工夫をされた方が良さそうです。
冬季うつ病の予防と対策1: セロトニン
冬季うつ病の予防と対策2: 光の量
冬季うつ病の体験談
冬季うつ病の方が光療法を実施された際の体験談をいくつかご紹介いたします。
冬季うつ病は、まだまだ世の中一般に広く知られているとは言えません。そのために、1人で悩んで苦しんでいる患者が多くおられます。周囲の人の理解や協力も得られないというのは、人間にとって大変苦しいことです。
下記の体験談をお読みいただき、もし、同じような症状で苦しんでおられるのであれば、大変勇気づけられることと思います。どの患者も、大変苦しい思いをされて書かれた体験談なので、ひじょうに説得力があり、大変貴重な内容となっています。
また、冬季うつ病の原因の説明で、日照時間が不足する冬場に発症することと、緯度が高いほど冬季うつ病の発症率が高いことを紹介いたしました。しかし、実際に光療法器具の使われる量は、東京圏や大阪圏という大都市圏の方が圧倒的に多いのです。
これは単純に人口の多さから来るものと理解しておりますが、北海道程の高い緯度でなくても、太平洋側の比較的天候に恵まれた地域でも、日本全国どこでも冬季うつ病が発生することを示しています。
- 東京の冬季うつ病の事例
- 北陸の冬季うつ病の事例
- 東北の冬季うつ病の事例
- 北海道の冬季うつ病の事例 (ヒアリング結果)
冬季うつ病だと気付かない日本人!
当委員会では、これまで多数の冬季うつ病患者をサポートしてきました。そして多くの患者と話しているうちに、いくつかの傾向が見えてきました。特に、緯度の高い地域や曇りの日が多い日本海側の地域と、太平洋側で日照時間の長い地域の間を、転勤・結婚・進学等で移動した人たちの話から、それが顕著であることを感じました。それらは定性的ではありますが、次のような内容です。
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そもそも、日本人は、「冬季うつ病」の存在をあまり知らない。同時に「光療法」についてもあまり知らない。
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緯度が高い北海道や、冬場になると曇りがちの日本海側の地域の人は、そこで生まれ育ってずっと生活していると、冬場のうつ気分を当たり前のように感じている。
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あるいは、あるていど耐性ができていて、我慢して春になるのを待ち望んでいる人が多い。
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ところが、太平洋側の日照時間の長い地域と、北海道や日本海側の間で転居された方は、顕著にそのを感じ、冬季うつ病を発症する場合が多い。
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しかし、太平洋側の地域でも、冬に日照時間が短くなると冬季うつ病の症状を示す人は意外に多い。実際に、東京や大阪圏の方からの問い合わせが断トツに多く、人口の違いが現れているとはいえ、データを取ってみて驚きました。
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冬季うつ病の治療は光療法が第1選択であることは明白です。しかし、医師の中でも、最初から抗うつ剤で治療しようとする方がおられるようです。非季節性のうつ病患者も冬場は辛くなりやすいので、そのような誤った治療を引き起こしているのかもしれません。
だいたいこのようなヒアリング結果を得ています。これらを見ると、日本人の冬季うつ病に対する知識の無さを感じます。冬季うつ病になってみて初めて冬季うつ病という疾患を知り、そして光療法にたどり着くという経過をたどることが多いようですね。
さらに私が調べた限りでは、地方では精神科・心療内科専門のクリニックの数が圧倒的に少ないという事実です。県庁所在地でさえも10件以下という場合が多く見られます。大都市圏では、駅前だけで数件あるのは珍しいことではありません。このことから、いくら人口が少ないとはいえ、地方では精神科・心療内科が一般的になっていないと推測せざるを得ません。
冬季うつ病はヨーロッパでは一般的
冬季うつ病は、ヨーロッパでは非常に一般的です。
ヨーロッパには、緯度が高い国が多く、冬場の日照時間が足りなくなりやすいのです。そのため、日本ではとても考えられませんが、公共施設で光療法が受けられる場所があったりするほどです。たとえば、ロンドンの科学博物館では、一般家庭の5倍の明るさを持つ照明を備えたライト・ラウンジと呼ばれるスペースをつくって一般の人に無料で開放しています。
また、2007年12月9日付けのサンデー・タイムズによると、ロンドン警視庁が職員のやる気向上を狙って、高照度照明器具を導入し、職員のやる気向上をあげようとしているニューズが掲載されました。
これはつまり、冬季うつ病対策ですね。冬場の気分の落ち込みを防ぎ、検挙率をあげようとする試みが試されているわけです。職員には積極的に高照度光を浴びるように薦めており、食堂内に2台設置しているそうです。
英国では、国民人口の1割程度(500万人)も冬季うつ病の方がおられると言われているので、実際、国家的な対策をとる必然性があるのです。簡単に500万人と言ってしまうと気がつきませんが、これは東京の人口の半分近くにあたるわけですからものすごい数なのです。
そうゆう意味で、日光浴をするヨーロッパの人の習慣は、日本人とは根本的に違うものかもしれません。高照度照明器具が一般家庭まで広く浸透していることを考えても、このような環境から必然的に生まれた産物であることは間違いないでしょう。
日本での冬季うつ病の人の割合は?
冬季うつ病の方は、日本にはいったいどのくらいおられるのでしょうか?
統計的にこれだという数字は見当たりませんが、米国、カナダ、日本の調査結果を参考までに紹介します。
- 米国: 面接調査で「それまでの人生で罹患した人の割合(生涯有病率)」が0.4~1.0%
- カナダ: 約3%
- 日本: 簡易診断スケール(SPAQ)の調査で「調査時に罹患している人の割合(時点有病率)」は北国で3~4%、全国平均では1%
仮に全国平均で1%とすると約100万人となり、冬季うつは決して稀な疾患ではなく、どこにでも見られる病気ということになります。
一方、当委員会は別の角度から見たデータを持っています。人口の何割というデータではありませんが、冬場に冬季うつ病を発症する方が多くなるということに関連する顕著なデータです。それは、ブライトライトという高照度照明器具の販売量が、冬と夏で3-5倍程度も差があり、冬の方が圧倒的に多く販売されているのです。これがすべて冬季うつ病に起因するとは言えませんが、問い合わせの内容から判断して冬季うつ病によるものが大勢を占めていると考えられます。