うつ病治療と高照度光療法
うつ病治療と光療法 ..これまでこれが筆者にとって最も重たく難しい内容でした。 ところが最近になって、生体リズムを改善することによってうつ病が改善することが実証され、生体リズムを整える光療法がうつ病治療に有効である、ということが明確になったのです!
プレス・リリース: うつ病治療に光療法が有効であることが実証された
筆者自身、これまで実際に光療法をうつ病患者に適用した場合に、治療効果の出る方と出ない方に分かれれることを何度も経験してきました。概日リズム睡眠障害や冬季うつ病の方の場合には、経験的に安心して光療法を薦められたのが、うつ病治療となると、「やってみないとわからない。」と回答せざるを得ませんでした。
医療界全体においても同様で、これまで、有効、無効の報告があり、うつ病の治療効果の証拠が余り明確ではありませんでした。
ところが最近、海外での研究が進み、試験期間も長期に取られるようになったこともあり、非季節性のうつ病の方にも治療効果があることが明確となったのです。
光療法がうつ病治療に有効
うつ病治療に対する光療法の有効性が実証されたことは、既に文献で発表されており、光療法推進委員会にとっては大変大きなニュースなので、先ずはここに簡易的に紹介しておきます。
この最初の越前屋先生の文献を見るだけで、既に光療法がうつ病に対して治療効果があることが、様々な角度から検証されていることを確認できます。
そして、日本での研究に目を向けると、下記の項目によって、筆者はさらにその治療効果に関して理解を深めることが出来ました。
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臨床精神医学 第35巻増刊号 2006 「高照度光療法」
大川 匡子氏、藤村 俊雅氏 滋賀医科大学睡眠学講座上記の文献より少し早い時期ですが、その時点で既に、「最近では非季節性うつ病に対しても高照度光療法単独で抗うつ効果が認められたという報告が見られており、非季節性うつ病に対しての適用も見直されている。」と記述されており、徐々にうつ病治療の研究成果が現れてきていたことがわかります。(うつ病治療 その1)
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「睡眠障害とうつ病の相互相関」
兼板 佳孝氏 日本大学医学部社会医学講座2007年11月の睡眠学会で、睡眠障害が様々の生活習慣病と密接な関わり合いがあり、かつ、睡眠障害とうつ病は双方向の相関関係があることが明示され、行政レベルで既に認知されていることを知りました。
双方向の相関があるということは、睡眠障害を治療して良い状態を長く維持していけば、うつ病が改善する可能性を示していることを意味しています。光療法には睡眠障害の治療効果があることは既知の事実です(除、睡眠時無呼吸症候群)。(後述)
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うつ病の発症メカニズムの解明
清水 徹男氏 秋田大学医学部神経運動器学講座 精神科学分野
田ヶ谷 浩邦氏 国立神経・精神センター武蔵病院臨床検査部睡眠障害検査室脳科学の話となりますのでとても難解ですが、このうつ病の発症メカニズムの最初に体内時計の指令による概日リズムが絡んでおり、上記のうつ病と不眠の双方向の相関関係が理論的に裏付けられていることが良く理解できます。光療法は、体内時計に直接働きかけて概日リズムを調整して睡眠障害を治療改善する効果があります。(うつ病治療 その2)
このように、海外の研究においてうつ病に対する光療法の治療効果が実証され、国内の研究においても睡眠障害・うつ病の発症メカニズム・概日リズムという観点から、その治療効果が裏付けられていることが理解できます。
うつ病治療は相乗効果で
光療法を推進している立場からすると、これまでうつ病治療に対してモヤモヤしていたものが払拭され、革新的な進展を得たと感じざるを得ません。それに光療法は他の治療法と共存でき、副作用もひじょうに少ないため、うつ病治療には投薬やその他の治療法と併用して相乗効果を期待できる点が大きな強みといえます。
代替医療情報: うつ病と光療法
また、うつ病に対して短期間で治療効果をあげることを期待するならば、断民療法と併用する方法がもっと広がることを期待します。(うつ病治療 その1参照)。
ただ、脳の複雑な仕組みや形態変化等を考えると、うつ病に対して治療効果が発揮できる場合でも、ある程度の長い期間を想定して対処する必要があるように感じます。また、様々な難治性の疾患に対する薬の治療効果を見ていてわかるように、すべての人に対して顕著な治療効果が現れるとは限らないことは認識しておく必要があります。抗うつ薬もその一つです。
いきなり、結論から入りましたが、それでは具体的にうつ病治療に関する文献を見ていきましょう。残念ながら、インターネット上に公開されている文献は僅かですので、殆どが、筆者の簡単な要約とコメントとならざるを得ません。うつ病の仕組みに関わる部分もあるので、内容が一般向けでない難解な部分があることを予めご容赦ください。
また、うつ病の体験談のブログを見つけましたので紹介しておきます。うつ病歴10余年、2度の大学病院の入院でも回復しなかった症状が、光療法で一気に回復した体験をざっくばらんにつづられています。
さらに、2009年2月22日に、NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」が放映され、インターネット上で話題が沸騰しましたので、その点についても少し触れたいと思います。
文献、他:
うつ病治療 その1
うつ病治療 その2
民間調査
うつ病体験談: 「効いた光療法」
NHKスペシャル「うつ病治療の常識が変わる」のインパクト!
睡眠障害とうつ病の相関
前記の国内研究の3で、「睡眠障害とうつ病は双方向の相関関係がある」ことを記述しています。この点に関して再度説明を加えておきます。
ここでまた、兼板佳孝博士(日本大学医学部社会医学講座)の「24時間社会と健康」のスライドの中から、一部を抜き出して紹介いたします。
「睡眠」がこの図によって、生活習慣病の重要な部分を示すことが示されました。そして更に、睡眠とうつ病と産業事故との関連までも示されています。「睡眠」が、これだけ明確に位置づけされたことは、まさに画期的な事です。
出展: 兼板佳孝博士(日本大学医学部社会医学講座)
日本睡眠学会 第32回学術集会 シンポジウムより。以下2枚の図も同じ出展。
下図は、うつ病患者の睡眠時間とそのうつ得点を調査した図表です。睡眠時間が短くなるにつれ、または、長くなるにつれ、うつ得点が急激に上昇して、睡眠時間とうつ病との相関が相当高いことが顕著に表れています。
睡眠時間とうつ病の関係
そして、下のシンプルな図がとても重要で、これがまさに、睡眠障害とうつ病は双方向の相関関係があることを示した図です。もう少し説明すると、「双方向の相関関係があるということは、うつ病を治療改善すれば睡眠障害が改善する可能性がある、睡眠障害を治療改善すればうつ病が改善する可能性がある」ということを物語っているのです。
睡眠障害とうつ病の相互相関
もし、光療法を使って概日リズムを整えることにより睡眠の質を改善できれば、うつ病の改善につながる可能性があることを物語っているのです。
筆者が患者をサポートした経験から、うつ病患者に光療法を適用して睡眠を改善出来た例は数多くあります。ただ、当時は情報が少なかったので、僅か3週間という短い期間だけ治療効果をモニターして終了しました。3週間という期間は、睡眠障害の治療効果を確認する期間としては可能な期間ですが、うつ病の治療効果を確認するには短すぎました。
筆者自身のうつ病体験から考えても、うつ病は短期間で治療・改善できるものではありません。薄皮をめくるかのように、ゆっくりと回復するのが普通です。したがって、うつ病の程度や症状に応じて、光療法によって睡眠の質を良好に保ったまま維持し、月単位で治療を継続・維持していくことが重要であると考えています。
自殺予防とうつ病治療
最新情報をお伝えすると、2008年6月の日本睡眠学会の一コマとして、「睡眠障害とうつ病 -自殺予防の基本戦略-」というセミナーが開かれました。
数名の先生方が様々な切り口からこのテーマに関して話されましたが、上記のうつ病治療 その2で紹介したうつ病の発生機構は、仮説レベルを超えて、ほぼ周知の事実として話が進行していました。
不眠を訴える人の半分にうつ病の傾向がある、悪夢を多く見る人は自殺の傾向が高くなるという説明には、光療法に自殺予防の期待を大きくしました。
また、うつ病は高齢化の影響を受け、自殺者はそれに伴って増える傾向があります。それらを未然に防ぐためには、各地域毎に、地域にあった具体的な精神保健が重要となってくるとの説明があり、今後の活動の難しさを感じざるを得ませんでした。
いずれにしても、自殺者は減少しておらず、うつ病はその原因の第一位のままです。この10年という期間は、世情が大きく揺れ動いた時期であり、自殺者が増える要因は多くなったと思います。このような中で、光療法を少しばかりでも活用してもらって、うつ病・自殺の予防と治療に貢献できることを祈らずにはいられません。
うつ病治療に関するサイトと書籍の紹介
最後に、うつ病治療に関して書かれているサイトや書籍をいくつか紹介します。
うつ病に関する書籍は無数にあってとても紹介できませんので、ここでは筆者が参考にしている学術的な医療従事者向けの書籍だけを紹介します。
うつ病治療のサイト
- うつ病治療.com 鬱病性障害の診断、治療、リハビリ
- うつ病専門サイト Utu-Web-Clinic
- うつ病治療の現在|治療と検査の最新医療情報
- UTU-NET うつ病、パニック障害、強迫性障害(OCD)情報サイト