睡眠障害と不眠の治療
不眠が2週間以上続くと睡眠障害になると言われ、治療が必要なレベルに至ります。そして今、日本は世界一の不眠大国と言われています。睡眠障害は様々な疾患を引き起こしますので、日本は非常に危機的な状態にあり、国策として実施されている「健康日本21」で睡眠が重視されているにもの明確な理由があるわけです。
不眠が2週間以上続くと睡眠障害となり治療が必要
ところで、睡眠障害や不眠という言葉は、昔はそれほど多く聞きませんでしたが、今ではごく普通の会話のなかで、「眠れない」、「朝起きれない。」、「毎日疲れている。」と話され日常化しています。このような社会的な変化が起きたのはどうしてでしょうか?また、いつ頃からなのでしょうか。
原因
睡眠障害や不眠が急に叫ばれるようになってきたのは、筆者の個人的な記憶では1990年台の中頃からではないかと思います。これはやはりわれわれを取りまく社会環境が急激に厳しくなり、その連鎖反応が国中に広がったように思います。代表的な要因を考えても、すぐに次のような項目が思い浮かびます。
- 現代社会が24時間化し、夜勤の職種も増え、眠ることのない社会に変わってきた。
- ビジネス界はさらに厳しい競争環境におかれ、ビジネスマンはかつてないほどのストレス環境に置かれている。
- 成果主義、裁量労働の導入により、一段と仕事環境が厳しくなった。
- 2000年以降、大企業・中小企業を問わずリストラが継続的に実施されてきている。
- コスト削減で正社員を削減して、派遣労働者、パートタイム、外国人労働者が急増し、雇用不安が深刻になった。
ストレス環境が睡眠障害を引き起こしている
これらは、ビジネス環境の変化を表す要因ですが、さらに問題なのは、これらが波及して家庭環境、特に、子供の世界まで睡眠障害と不眠は広がっていることです。
- 24時間社会と長時間労働により、家庭では夜型生活へとシフトし、慢性的な睡眠不足状態を引き起こしている。
- 親の生活変化に伴い、子供も夜型生活へと引きずられてきた。
- 夜の塾通いが一般化し、就寝時間を遅らせる一因となっている。
- ゲームや携帯電話による夜更かし広がり、就寝時間を遅らせる要因となっている。
- 土日も続く部活、夜の塾通い、激しい受験勉強など、子供が心身ともにリラックスできる時間が奪われている。
このように、社会構造の変化は、大人だけではなく子供の世界にまで広がり、日本中に睡眠障害の嵐が吹き荒れている状況と言えます。
睡眠障害の種類と多様化
睡眠障害を要因別に分類すると、おおむね下記のような分け方が出来ます。
- 不眠症(精神生理性不眠症)
- うつ病に伴う睡眠障害
- アルコール依存睡眠障害
- 概日リズム睡眠障害
- 睡眠時無呼吸症候群
- 高齢者の睡眠障害
- 認知症の睡眠障害
(このサイトでは、光療法の関係するものにフォーカスしていますので、アルコール依存睡眠障害と睡眠時無呼吸症候群には触れていません。)
しかし、睡眠障害を単純な障害と捉えることはできず、睡眠障害と因果関係となる疾患が多く認められることがわかってきており、下記のような様々の疾患や症状まで関連していることが証明されてきています。
- 生活習慣病
- 肥満
- 糖尿病
- 高血圧
- 動脈硬化, 狭心症, 心筋梗塞
- うつ病
- 産業事故、仕事のミス、仕事効率の低下
- 切れる子供
- 不登校(慢性疲労症候群)
- 脳細胞の発達阻害
- 認知症
このように、睡眠障害を単なる障害と捉えるのは危険なのです、睡眠は人間の生命エネルギーですから、その睡眠に障害が発生すると様々な分野に波及して悪影響を及ぼすことを十分理解しておく必要があります。
したがって、睡眠障害を治療することは、これらの様々な疾患を治療していくことにも繋がるのです。
治療と対処
睡眠障害や不眠が継続する場合、どう治療・対処すればよいのでしょうか。
まずは、専門医の診断・治療を早期に受けることです。2, 3週間も不眠が続くようであれば明らかに睡眠障害ですから、早期に受診して治療することが必要です(後述)。
ところが日本では、医師の診断・治療を受ける前に、寝酒によって睡眠障害を解決しようとする悪い習慣がはびこっています。さらに最近では、ドリエルで有名になった睡眠改善薬を常用する人も出てきて、状況を更に複雑にして悪化させています。
睡眠障害と寝酒
日本は、睡眠障害に対して寝酒を多用する世界一の国と言われています。確かに、少量のお酒を飲むと、脳の活動を抑える神経伝達物質が増えるので入眠には有効です。
しかし、同時に睡眠をコントロールする脳細胞の働きを悪くするため、 浅い眠りの時間が増え、良質な睡眠が得られなくなります。厚生労働省が研究委託した研究報告でも、寝酒は不眠のもと、と明言されています。したがって、先ずは寝酒を断ち、専門医の診察・治療を受けることになります。
何科を受診すれば良いか?
睡眠障害と自分で感じた時、さて、何科を受診すればよいかおわかりですか?
睡眠障害に伴う症状にもよるので、どの科を受診すればよいか良くわからない方が多いのが実情だと思います。候補としては下記の科で、事前に電話して確かめてから行くのが良いでしょう。
- 睡眠外来
- 睡眠障害
- メンタルクリニック
- 精神科
- 心療内科
最近は、睡眠外来や睡眠障害の科を掲げている病院も増えてきたのでわかりやすくなってきています。ただ、睡眠外来という名称でも、呼吸器系の睡眠時無呼吸症候群を主に診ている場合も多いのでで、事前確認は欠かせません。
メンタルクリニックの場合は、中身は精神科か心療内科のどちらか、または両方を担当しています。 メンタルクリニックと書いた方が患者の受けが良いので、最近ではメンタルクリニックという名称が増えています。
また、神経内科という科も別にあって紛らわしいのですが、基本的には内科ですので、直接的には該当しません。心療内科も内科ですが、ストレスやメンタル面も診療しますので、その点が神経内科とは異なります。
初診の場合は、30分程度の診療となる場合が多いようですが、あっという間に過ぎてしまいますので、受診する前には、事前に症状や時期を箇条書きにしてまとめておくことをお薦めします。自分の再確認にもなりますし、「あっ、言い忘れた!」ということが無いように、是非行ってみてください。
睡眠薬に関する私見
睡眠障害で医師の診察を受けると、その治療に睡眠薬を処方される場合が多いと思います。最近の睡眠薬は安全性が高まって副作用の割合が低く、安心して使えるようになっています。そうゆう意味では、睡眠薬に過剰の抵抗感を持つ必要はないと思います。
ただ、当委員会が、睡眠障害・不眠やうつ病で通院している患者に実態調査をしたところ、睡眠薬で睡眠障害が完治した方は全体の約2割しかありませんでした。 それ以外の方は、最初は効いたがだんだん効かなくなって止めてしまったか、もしくはより強い睡眠薬に移行しているという結果が得られています。
よくテレビ番組などで、「医師の処方を守って」と言われるのを聞きますが、医師は基本的に2週間分以下しか睡眠薬を処方しませんから、患者が無茶な服用をすることはあまり考えられません。症状が進んでしまってから、2錠、3錠と薬が増えても効かなくなった場合などに医師の処方を破る例は見られますが、最初から処方を守らない患者などほとんどいないのが現実です。
この結果から得られる真実は別のところにあります。ほとんどの患者は睡眠薬を飲むと寝られるようになって心身が楽になるので、それまでの生活をそのまま継続してしまう場合が多いのです。睡眠障害の元凶を絶つことなしに服用を継続していると、徐々にその効果が薄れてきてしまう場合があります。
本来の治療は、睡眠障害の原因を取り除くこと
つまり、睡眠薬を飲んでいる期間に、睡眠障害の原因を取り除くことを実施し、それができたら睡眠薬を減らしていって最後には服用を止めるようにする、という本来のシナリオをきちんと事前に頭に叩き込む必要があります。
医師の方々にもこれを徹底してもらいたいものです。睡眠薬の安全性ばかりを強調しても片手落ちです。睡眠薬を処方する以上、患者に対して生活習慣を変える、あるいは、考え方を変える、何がしかの行動を変えて睡眠障害の元凶を断つという念書をとるくらいのつもりで睡眠薬を処方してもらいたいものです。
ただ、うつ病などの治療期間が長い疾患の場合は、長期的なスタンスにたって服用することは正しい判断だと思います。
睡眠改善薬は、睡眠障害治療薬ではない
ドリエルで有名になった睡眠改善薬も、睡眠障害がはびこるこのご時世では、筆者は良い印象を持っていません。
睡眠改善薬と言われる薬の成分は、実は抗ヒスタミン薬の一種である塩酸ジフェンヒドラミンで、かゆみ止めなどに使われるアレルギー治療薬です。睡眠障害治療薬ではありません。
この手のアレルギー症状を抑える薬では眠気という副作用がつきもので、睡眠改善薬はこの副作用を利用した薬なのです。したがって、アレルギー治療薬を服用しているという認識を持つことが重要で、ごく短期間に限って服用するものです。
実際に、睡眠改善薬の服用指示をみても、「一時的な不眠症状を緩和」と書かれており、更に、『一時的不眠とは、「精神疾患等病的な原因のない人が経験する一過性の不眠」のことで、その持続期間は数日間で、一週間を超えない範囲の不眠のことを言います。』と明示されています。したがって、睡眠障害の治療用ではないのです。
睡眠障害に陥っている人は、2, 3週間以上の不眠を継続している方ですから、ドリエルのような睡眠改善薬の対象ではありません。本来、この点を良く認識した上で利用すべきものですが、ドラッグストアのレジ横に置かれていたりすると、ついつい手が出てしまいがちになるのが困りものです。
睡眠障害の治療と光療法
光療法は睡眠障害の中でも概日リズム睡眠障害に有効とされる治療法です。アルコール依存睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群などには効果を発揮出来ません。体内時計に端を発する生体リズム全体を整えるよう働きかけますので、からだの広い範囲に好影響を与えます。
前記で紹介した睡眠薬の調査では、同時に非薬物療法に関しても調査しておりますので参考までに簡単に紹介します。
ストレスやうつ病で睡眠障害・不眠を抱えて通院されている患者に、インターネットを通じて広くアンケート調査を実施しました(サンプル数110名)。アンケート内容は、その患者の実体験を伺うもので、多くの非薬物療法を列挙して、実際にそれらがどの程度効果があったかを伺いました。医療的な解析や理由付けを行うというより、あくまでも、患者が実際に体感した効果を抽出したものです。
具体的には、投薬とカウンセリング以外の非薬物療法を数多くリストし、まず、実際に取り組んだ治療法を選んで頂きました。さらに、その取り組まれた治療法のそれぞれについて、どの程度効果があったかを5段階で回答して頂きました。
その結果、睡眠障害に一番治療効果が高かったのは光療法であるという結果を得ました。2番目は、呼吸法と自律訓練法という結果が得られました。
この調査は一つの結果ではありますが、インターネットによる限られた調査であること、患者の主観評価であること、症状の詳細は不明であることなど、かなり大ざっぱな調査ではあったことは条件として認識しておく必要があります。
詳細情報: 概日リズム睡眠障害の改善例
睡眠障害になると、なぜ問題なのでしょうか
睡眠障害になるとなぜ問題かは、「なぜ睡眠が必要か」という質問の答えでもあります。この「睡眠障害と不眠の治療」のページの最後に、最も基本的でもっとも重要な話題を提供して、睡眠の大切さを理解していただければと思います。
われわれが生命活動を維持するために必ず睡眠をとります。動物実験等により、睡眠をとらないでいると、生命を維持することが出来なくなることは早期からわかっていました。そして、当初は、睡眠は心身の疲労回復という捉え方がされていましたが、実際には、疲労回復の側面はもちろんあるものの、脳が積極的に生命維持を行うために、能動的に睡眠を引き起こしているということがわかってきています。
この脳の引き起こしている睡眠のメカニズムを簡単に紹介します。
-
睡眠は疲労を回復し、脳機能や身体機能を健常に保ってくれる。
- 熟睡は体内バランスを整える。
人の体は自律神経系、内分泌系、免疫系の3系統でバランスを取り合っています。熟睡することによって、これらのバランスが維持されて体調が良くなるのです。- 自律神経系は消化、呼吸、発汗、および代謝のようなわれわれが無意識に行っている機能を制御しています。また、内分泌系と連携して、人間の恒常性に貢献しています。
- 脳下垂体から成長ホルモンが分泌され、細胞の新陳代謝を促して、皮膚や筋肉、骨などを成長させたり、日中の活動で傷ついた筋肉や内臓などを効率よく修復する働きがあります。
- 免疫力の増強やエネルギーの保存などを行い、日中の活動を元気に送れるように備えています。
-
学習・記憶の定着に良い影響があります。
これらの働きを見ると、なぜ脳に睡眠が必要か、いかに睡眠が重要かということがハッキリと見えてきます。脳は休息することと同時に、明日の活動に向かって積極的に準備していると言えるでしょう。したがって、睡眠障害になると心身の様々なところに悪影響が及び、生命エネルギーを高く維持できなくなるわけです。